桐野夏生 「アンボス・ムンドス」

新刊が出るとつい読んでしまいます。すぐに読めて、そこそこ満足できるからでしょうか。安全パイというやつですね。
以前の「ただ読みダイアリー」で「冒険の国」をくさしましたが、今度は持ち上げておきます。桐野ワールドの炸裂です。このたび文庫落ちした「リアルワールド」ともにお勧めです。現在朝日新聞に連載中の「メタボラ」も単行本化されたら読んでしまうのでしょうね。新聞の連載って、あのサイズを毎日読むの、辛いです。何でもっと長くしないのでしょう。
白石一文 「不自由な心」

この人もなんとなく、ついついという感じて読んでしまう人です。これはデビュー二作目の短編集なんですが、これで単行本化されているものは完読のはずです。いつも「何だかなあ…」と思いながら読むのですが、何となくまた読んでしまう、そんな憎めなさのある作家です。好きなんでしょうね、きっと。
マーカス・デュ・ソートイ 「素数の音楽」

素数と格闘する数学者の物語。素数の深遠な謎と、それに挑む人間精神の気高さに、ただただ頭が下がる一冊です。ばかな政治屋のお粗末な言説や、腹はめいっぱい黒く、頭の中身は空虚な経済屋のはしたない所業を見聞きする時間を、こういう本の中で過ごす時間にそっくり置き換えたい、そんな気持ちになります。
エウクレイデス、ガウス、オイラーから、ゲーデル、RSAまで、この本に登場する数学者列伝の中で、私が最も印象的だったのは、ラマヌジャンという数学者です。公教育も受けず、マドラス港湾局の事務員をしていたラマヌジャンが「子供のような熱意を持って素数の海に飛び込」み、命がけで泳ぎぬく様は、決して恵まれたものではなかったようですが、多くの数学者に影響を与えています。まさにハーディーが言うように、真の人間精神の創造物でありながら、人間の共同主観を越えた実在性を獲得しうる数学というものを体現する人といっていいのではないでしょうか。
数学と縁のない人にはややしんどい本ではありますが、素晴らしい本です。強力お勧めです。
奥田英朗 「ララピポ」

最後にこっそりご報告。お勧めはしません。でもこれはいいんじゃないですか。村上龍の「ライン」に通じる手法ですね。さすが奥田先生。やっぱり偉い。